본문
2026年3月に国会本会議で成立した「公訴庁法」および「重大犯罪捜査庁の組織および運営に関する法律」(以下「重大犯罪捜査庁法」といいます)は、制定・公布され、2026年10月の施行を控えています。また、2026年6月22日には「重大犯罪捜査庁法施行令」の制定案が立法予告され、公訴庁および重大犯罪捜査庁の発足に向けた準備が本格化しています。今回の立法は、捜査と起訴の「物理的・制度的な完全分離」という原則に基づき、捜査構造を再編した点に意義があります。
公訴庁法の制定により、検察官による特別司法警察に対する指揮・監督権が削除され、検察官の職務範囲は、公訴提起の可否の決定およびその維持に必要な事項、令状請求に関して必要な事項等に縮小されました。また、重大犯罪捜査庁法の制定により、行政安全部所属の重大犯罪捜査庁が、6大重大犯罪(腐敗犯罪、経済犯罪、防衛産業犯罪、麻薬犯罪、内乱・外患犯罪、サイバー犯罪等)に関する捜査を担当することになりました。
本ニュースレターでは、このような捜査構造の変革の具体的な内容を概観したうえで、それに伴い予想される効果と懸念事項、ならびに今後の企業事件における対応戦略について検討します。
1. 概要
2. 法律の主要内容
3. 予想される実務上の変化
4. 法制定による期待効果・懸念事項
5. 今後の企業事件における対応戦略
1. 概要
2026年10月に施行予定の公訴庁法および重大犯罪捜査庁法は、捜査と起訴の「物理的・制度的な完全分離」を原則とする刑事司法制度の大規模な構造改革です。
これにより、従来の検察庁は廃止され、起訴および公訴維持のみを専担する公訴庁が新設されるとともに、検察官による直接捜査権は全面的に排除されます(補完捜査権の範囲は、今後の立法により定められる予定です)。一方、腐敗犯罪、経済犯罪、防衛産業犯罪、麻薬犯罪、内乱・外患犯罪、サイバー犯罪等の6大重大犯罪については、行政安全部所属の重大犯罪捜査庁が新設され、専担して捜査を行うことになります。これにより、刑事司法制度は、警察、を判断する構造へと再編されます。重大犯罪捜査庁、特別司法警察等へと捜査主体が多元化し、公訴庁が事後的に起訴の可否
[立法経過の概要]
① 検察庁廃止立法・第1段階:2025年9月、検察庁を廃止する政府組織法改正。2025年10月1日、改正政府組織法施行
② 検察庁廃止立法・第2段階:2026年3月24日、公訴庁法および重大犯罪捜査庁法公布(2026年10月2日施行)
③ 検察庁廃止立法・第3段階:2026年6月の地方選挙後、検察官の補完捜査権の存廃に関する刑事訴訟法改正
④ 後続下位法令の整備:2026年6月22日、詳細な運営基準を定める重大犯罪捜査庁法施行令案の立法予告
このような制度変更により、実務上、初動捜査対応の重要性が大きく高まるものと予想されます。また、警察、重大犯罪捜査庁、特別司法警察等、複数の捜査機関の各段階における対応が、刑事事件の帰趨を左右する可能性が高いと考えられます。特に、検察官による直接的な捜査関与が排除されることに伴い、捜査段階における誤りを是正する制度的仕組みが弱まる可能性があります。その結果、こうした誤りが十分に是正されないまま起訴段階へ移行する事件が増加する可能性も否定できません。したがって、捜査初期対応の不備を事後的に補完するためには、相当な時間と費用を要することが予想されます。
2. 法律の主要内容
ア. 公訴庁法
公訴庁法は、従来の検察庁を廃止し、これを公訴庁へと改編することにより、刑事司法機能を捜査と起訴に分離することを目的として制定されました(第3条、第4条)。
公訴庁法は、公訴庁の主たる職務を「公訴提起の可否の決定および公訴維持に必要な事項」と定めており(第4条第1号)、公訴庁は直接捜査を行わず、犯罪捜査に関する司法警察職員との協議・支援に限定された業務を遂行するものとされています(第4条第3号)。
もっとも、憲法上、検察官に付与されている令状請求権および最低限の手続的統制の必要性を踏まえ、令状請求に関して必要な事項については、検察官が職務を遂行できるものとされています(第4条第2号)。
また、従来の検察組織および人員は、段階的に公訴庁へ移管されることを原則としつつ、検察官の熟練した捜査ノウハウを承継するため、検察官については、本人の意思を尊重したうえで、大統領令で定めるところにより、類似する職務内容の相当する職級で、重大犯罪捜査庁等の他の国家機関の公務員として任用することができる旨の規定が設けられました(附則第7条第1項)。
イ. 重大犯罪捜査庁法
重大犯罪捜査庁法は、6大重大犯罪(腐敗犯罪、経済犯罪、防衛産業犯罪、麻薬犯罪、内乱・外患犯罪、サイバー犯罪等)について専門的な捜査を担う重大犯罪捜査庁を設置することを目的として制定されました(第2条、第3条)。重大犯罪捜査庁は、重大犯罪に関する捜査を専担するため、行政安全部の下に置かれる独立した捜査機関として新設され(第3条第1項)、従来検察が担っていた重大犯罪に対する直接捜査機能と同様の捜査権限を行使します(第4条第1項)。
重大犯罪捜査庁には、本庁のほか、全国各地に地方捜査庁が置かれ、必要な組織および専門捜査人材を備えるものとされています(第11条)。また、捜査の専門性を確保するため、重大犯罪捜査庁長を補佐し、重大犯罪等の捜査事務に関する企画・調査および研究に従事する捜査研究官を置くことができる旨の規定が設けられました(第13条)。
一方、従来の検察における重大犯罪捜査の人材および能力を吸収するため、検察庁所属の検察官および捜査官を、相当する階級の重大犯罪捜査庁公務員として任用することができる旨の特例規定が設けられました(附則第4条)。
3. 予想される実務上の変化
ア. 公訴庁の機能
与党側は、同法の制定に合わせて、地方選挙後に刑事訴訟法を改正し、検察官の捜査権を定める第196条第1項を削除するものと予想されます。その際、補完捜査権を定める同条第2項の存廃が核心的な争点として浮上する見通しです。与党陣営の強硬派議員からは、補完捜査権に関する規定も削除すべきであるとの主張が強まっていますが、補完捜査権まで廃止された場合、検察官は事実上、行政調査権に近い限定的な権限しか有しないこととなり、起訴の可否の判断および公訴維持のための証拠収集に相当な制約が生じる可能性があります。
仮に補完捜査権が維持されるとしても、現在の与党側の基本方針に照らすと、補完捜査の範囲を、本捜査と「同一性」または「直接関連性」が認められる犯罪事実に厳格に限定する立法が行われる可能性が高く、従来のような検察による実質的な捜査機能は大幅に縮小されるものとみられます。これにより、捜査段階で形成された事実関係および証拠が、事実上、裁判の帰趨を左右することとなり、検察官による事後的な統制・補完機能は著しく弱まる方向で実務が再編される可能性が高いと考えられます。
もっとも、公訴庁は、捜査権を有しないとしても、令状請求権および起訴権を根拠として、司法的統制機能を強化する可能性が高いとみられます。例えば、米国の場合、法律上、検察官に捜査指揮権限はありませんが、検察が警察による違法な捜査を指摘した場合、多額の損害賠償問題が生じ得るため、実務上、警察が自発的に検察官の助言を求めるのが実情であり、一部ではこれを検察官による指揮と評価する学者もいます。このように、公訴庁の検察官も、令状請求の却下判断、不起訴処分等を通じて、捜査の違法性や法令適用上の誤り等を具体的に指摘することにより、司法的統制機能を強化していく可能性が高いと考えられます。
一方、当初政府が提出した公訴庁法原案第4条には、特別司法警察に対する検察官の指揮・監督権が盛り込まれていましたが、与党強硬派議員の反対および李在明大統領の指示により、最終案では削除されました。そのため、今後の刑事訴訟法改正の段階においても、特別司法警察に対する検察の指揮・監督権をめぐり、激しい議論が予想されます。
イ. 重大犯罪捜査庁の機能
重大犯罪捜査庁は、従前の検察が有していた証券・金融、公正取引、企業犯罪等に関する直接捜査権限を移管され、腐敗犯罪、経済犯罪等の6大重大犯罪を専担して捜査することになります。また、証券先物委員会・公正取引委員会による告発等、6大犯罪領域に関する関係機関からの告発についても、宛先が重大犯罪捜査庁長に変更される可能性が高いとみられます。さらに、重大犯罪捜査庁は、法歪曲罪事件および公訴庁・警察・高位公職者犯罪捜査処・裁判所の公務員が在職中に行った犯罪についても、捜査権を有する予定です。
特に注目すべき点として、当初の政府案に含まれていた第45条(重大犯罪捜査庁法第45条は、捜査官が捜査を開始する際、被疑者・犯罪事実の要旨・捜査の経過等を検察官に通知し、検察官が意見の提示・協議を要請できるようにする条項)が問題となりましたが、これは党・大統領府間の協議過程で削除され、捜査開始段階における検察官の関与が根本的に遮断されました。
一方、大検察庁のアンケート調査の結果、検察庁が廃止された後に重大犯罪捜査庁の捜査官として異動することを希望する検察官は0.8%にとどまることが確認されました。現時点では、重大犯罪捜査庁へ移管される検察官はほとんどいないものと見込まれ、重大犯罪捜査庁は、警察・検察捜査官および若手弁護士を中心に構成される可能性が高いと考えられます。
4. 法制定による期待効果・懸念事項
公訴庁および重大犯罪捜査庁の発足により、実務上予想される効果および懸念事項は、以下のとおりです。

5. 今後の企業事件における対応戦略
ア. 捜査構造の変革に伴う捜査機関対応戦略の全面的な再構築
捜査と起訴が分離され、警察、重大犯罪捜査庁、特別司法警察等へと捜査主体が多元化することに伴い、各機関の権限構造および捜査手法の違いを踏まえた弁護・対応戦略の重要性が大きく高まるものとみられます。特に、事件の初期段階において事実関係の形成および証拠収集の方向性が事実上決定される構造が形成される可能性が高く、初動捜査対応にリソースを集中することが、事件の帰趨を左右する核心的な要素となることが予想されます。
また、刑事事件における起訴前の弁護活動は、捜査機関段階と公訴庁段階の二層構造となるものと考えられます。すなわち、警察・重大犯罪捜査庁・特別司法警察を相手方とする捜査段階では、事実関係の確定および証拠収集を中心とした対応が求められ、公訴庁を相手方とする令状請求段階および起訴可否判断段階では、法理を中心とした弁論が展開されることになります。そのため、各段階に応じた弁護・対応戦略が求められるものと見込まれます。
一方、公訴庁の検察官は、直接的な捜査関与が制限されるため、事後的に整理された記録および証拠を中心に起訴の可否を判断することになります。このような構造の下では、検察が従来のように捜査段階で自ら形成した事件の方向性に左右されるというよりも、捜査機関が特定した事実関係および証拠の整合性、ならびに法理上の説得力を、より中核的な判断要素として起訴の可否を判断することが予想されます。したがって、従来に比べ、より精緻かつ体系的な法理中心の弁護・対応戦略が実質的な効果を発揮する可能性が高まるものと考えられます。
イ. 警察および特別司法警察の専門家との協業体制の構築
捜査主体が警察、重大犯罪捜査庁、特別司法警察へと多元化することに伴い、各機関の捜査手法および手続に精通した専門家との協業が、刑事事件対応における重要な要素として浮上するものと考えられます。そのため、各捜査機関または特別司法警察での捜査経験を有する弁護士・専門家との協業を通じて、初動捜査段階から、より実効的かつ精緻な対応戦略を構築する必要性が高まっています。
特に、刑事訴訟法改正の方向性によっては、公正取引、租税、知的財産、重大災害等の専門分野を取り扱う特別司法警察による捜査開始および進行過程において、検察官による指揮・監督手続が事実上排除されることも想定されます。その場合、当該機関の裁量の幅は一層拡大する可能性が高いと考えられます。したがって、当該分野に精通した専門家と連携し、各捜査機関が重視する論点を事前に予測した上で、必要な対応策を講じることが重要になるものとみられます。
ウ. 憲法上の正当性を強調した捜査対応および訴訟戦略の構築
近時、法歪曲罪および裁判訴願制度が導入されたことに伴い、企業刑事事件において、憲法上の手続的正当性を重視した対応の重要性が一層高まっています。これは、単に手続法上の違法の有無を指摘するにとどまらず、捜査および裁判の全過程において憲法上の基本権保障が正当に行われているかを継続的に点検・統制するアプローチを意味します。特に、近時、裁判所が刑事手続において適正手続の原則をより厳格に求め、違法収集証拠を排除して無罪を言い渡したり、弁護士・依頼者間の秘匿特権を認めたりする傾向にあることを踏まえると、このような憲法中心の対応の実効性は、さらに高まっているものと評価されます。
具体的には、押収・捜索および取調べの過程における基本権・手続参加権の侵害の有無等、将来的に手続上問題となり得る論点を、初期段階から体系的に整理・構造化する戦略が重要です。今後、捜査過程において検察による手続的統制が弱まることが予想されるだけに、このような手続的対応は、捜査過程における準抗告、裁判過程における証拠能力をめぐる争い等、手続的相当性が問題となる局面において、企業側の主張をより説得的に裏付ける根拠として機能し得ます。
おわりに
今回の公訴庁法および重大犯罪捜査庁法の制定・公布は、刑事司法制度全般に重大な変化をもたらすものと予想されます。両法律は2026年3月24日に公布され、2026年10月2日の施行を控えており、現在、重大犯罪捜査庁法施行令案の立法予告等、発足に向けた後続下位法令の整備が進められています。このような刑事司法制度の変化を踏まえ、企業としては、改正内容全般を綿密に検討するとともに、実務に直ちに適用可能な対応戦略を事前に策定しておく必要があります。
弊所の企業刑事戦略センター(CCDSC)は、刑事分野に精通した専門家および関係機関で多様な実務経験を積んだ人材が、企業関連の刑事案件についてワンストップで支援する統合専門組織です。刑事分野に関するあらゆる法律問題に迅速に対応できるよう、関連する法的課題をあらかじめ整理してお示しし、適時適切なサポートを提供いたします。本件に関してご質問等がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。