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【韓国】香港H指数連動ELSの不適切販売訴訟: 銀行側全面勝訴(第一審・2026年1月16日判決)

  • ニュースレター
  • 2026.02.10

2022年下半期に香港HSCEI指数が急落したことにより、同指数を基礎資産とするELS商品(Equity Linked Securities:株価連動型証券)に投資していた投資家が大きな損失を被りました。これを受け、損失を被った多数の投資家が、当該ELS商品を販売した金融機関に対し、不適切販売を理由として損害賠償請求等の訴訟を提起しました。

 

法務法人(有限)和友(以下「弊所」といいます。)は、市中銀行を代理し、香港HSCEI指数連動型ELS商品に関する不適切販売訴訟において、投資家の請求を全部棄却する第一審勝訴判決を獲得しました。

 

本判決は、香港HSCEI指数連動型ELS商品をめぐる不適切販売訴訟において、市中銀行が全面勝訴した事例であり、特に、金融機関が投資家に対してどの程度の説明を行うべきか、さらに運用資産説明書に必須として記載すべき事項の水準・範囲について、裁判所が、直接、判断基準を示したことで、説明義務違反の成否に関連して、説明資料に記載すべき内容の範囲とその限界を明確化した点で、今後の類似紛争における重要な判断指針を示したものと評価でき、非常に意義ある先例的価値を有するといえます。

 

本ニュースレターでは、本第一審判決の主要な内容を中心に、裁判所が投資家による不適切販売の主張を退けた主な理由について解説します。

 


1. 事案の概要

2. 原告主張の要旨

3. 弊所の弁論方針

4. 裁判所の判断

5. 本判決の示唆


 

1. 事案の概要

 

原告は、2021年2月、被告銀行の営業店において香港ELS株価連動証券(以下「本件商品」といいます。)を買い付けましたが、同指数の継続的な下落により元本割れの損失を被りました。

 

本件商品は、米国S&P 500指数、香港HSCEI指数、欧州Eurostoxx 50指数の3つの株価 指数に連動する、リスク等級2のハイリスク・デリバティブであり、満期3年、6か月ごとに早期償還の機会が設定されたステップダウン型のELS商品でした。特に、3つの株価指数のうち、いずれか一つでも50%未満に下落した場合には元本割れが発生し得る(ノックイン)構造であり、満期時点で上記指数のうちいずれか一つでも購入時点の70%未満となった場合には、下落率が最も大きい基礎資産を基準として、元本の30%~100%の損失が生じ得る仕組みとなっていました。

 

なお、原告は当初購入を希望していた別の商品について、販売枠が既に消化され購入できなくなったことから、その代替として本件商品の購入を決めました。ただし、原告には他の予定が入っていたため、原告の同意の下、原告が一時的に席を外している間に本件商品の購入手続が進められました。その後、原告は戻ってきて契約書類に自らチェックを入れ、自筆記載及び署名を行ったうえで、信託通帳等の関連書類を受領しました。

 

 

2. 原告主張の要旨

 

訴訟の過程において原告は、自分が他の予定により席を外す前の時点では、本件商品の販売が開始されておらず、同商品の「運用資産説明書」を閲覧できない状況であったため、当然ながら本件商品の運用資産説明書に基づく説明が行われることはできなかったと主張し、被告銀行の説明義務違反が認められるべきである旨主張しました。

 

さらに原告は、被告銀行が作成した本件商品の運用資産説明書に盛り込まれている内容も不十分であると主張しました。具体的に原告は、運用資産説明書に20年分ではなく10年分の基礎資産価格変動推移が記載されている点、基礎資産の過去データを用いた20年分の収益率シミュレーション結果が含まれていない点、H指数の構成銘柄および、それに起因する下落幅拡大の可能性に関する記載がない点等を問題視し、これらの事情も踏まえて被告銀行の説明義務違反が認められるべきであると主張しました。

 

 

3. 弊所の弁論方針

 

これに対し弊所は、①原告の過去の金融投資商品の購入履歴を示し、原告は本件商品購入の前にも既に複数回ELS商品を購入したことがあり、本件商品の仕組みやリスクについて十分に理解し得る能力を有していた点、②原告が一時的に席を外している間に本件商品購入手続きが進行した事実はあるものの、これは専ら原告の便宜を図って行われたたに過ぎず、また本件商品の運用資産説明書ではないものの、原告が当初購入を希望していた商品の運用資産説明書等を用いて本件商品に関する説明が行われており、当該説明書の内容は本件商品の運用資産説明書と実質的に同一であった点、③原告は本件商品購入当日に本件商品の購入書類一式を作成しており、その過程で元本割れの可能性および商品の内容について説明を理解した旨を、自らチェックを入れ又は自筆で記載した上で署名している点等を挙げ、被告銀行の説明義務違反は成立しない旨主張しました。

 

何よりも、原告の運用資産説明書記載内容の不備に関する主張について、弊所は、①説明義務の履行の有無は、投資家の合理的な投資判断、又は当該金融投資商品の価値に重大な影響を与え得る事項について説明がなされたかどうかという観点から判断すべきであり、ここでいう「重大な影響を与え得る事項」とは、合理的な投資家が金融投資商品に関する投資判断や意思決定を行うにあたり重要視する相当の蓋然性がある事項を意味するとした大法院の判示を前提に、②基礎資産のボラティリティや基礎資産間の相関関係の影響等、投資性商品の詳細にわたる技術的事項は、一般に説明義務の直接の対象となり難いこと、③さらに、本件商品の運用資産説明書においてグラフなどを用いて本件商品の基礎資産の価格推移が10年分示されているとしても、当該期間設定について何等かの法令又は監督規程上のガイドラインが存在しない限り、それは金融機関が裁量により定め得る事項にとどまること、④特に、過去の金融危機やコロナ禍等のネガティブな市場状況が十分に反映されていることから、同期間を10年とした事情のみをもって投資リスクを歪め又は過小に表示したものと評価することはできない旨を積極的に主張しました。

 

結果として、裁判所は、弊所のこれらの主張を全面的に採用し、原告の請求をすべて棄却しました。具体的な判断内容は以下のとおりです。

 

4. 裁判所の判断

 

裁判所は、金融機関が投資家に対してどの程度の説明を行うべきかは、当該金融投資商品の特性およびリスクの程度、投資家の投資経験・能力等を総合考慮して判断すべきであるとする大法院の立場(大法院2018年7月20日判決・2016ダ35352号等)を示した上で、以下の事情を総合し、原告の説明義務違反に関する主張をいずれも退けました。

 

原告は、本件商品購入当日に購入書類の自筆記載部分を作成し、説明義務の履行に関する確認欄にチェック又は自筆記載を行っているうえ、購入直後に被告銀行は原告に対して案内メッセージや商品説明書等をSMSで送付したため、仮に原告が本件商品購入当日の午後ではなく翌日に銀行支店を訪問して信託契約書等に署名したとしても、本件商品の構造、購入に至った経緯、被告による説明の内容・方法、原告の投資経験等に照らし、被告が本件商品のリスクについて一切説明しなかったとみることは困難である。

 

原告は、本件商品購入当日に被告銀行に1時間以上滞在したと認められるところ、これは商品説明、投資性向分析、購入書類の作成等を行うに足りる時間であって、原告主張のとおり、被告が説明を何も行わず原告に直ちに購入書類の作成を求め、5~7分で書類作成が完了していたのであれば、当日に当初希望していた商品の販売枠が消化され購入できなくなることは無かっただろう。

 

本件商品は、原告が購入できなかった商品と発行体が異なるだけで、基礎資産、構造、リスクの程度等の主要条件は同一であり、これらを説明する運用資産説明書の内容も同一であるため、仮に本件商品の運用資産説明書が印刷できない状況にあり、原告が購入できなかった商品の運用資産説明書および商品販売リストを基に説明が行われたとしても、そのような事情だけをもって被告が説明義務を尽くさなかったとはいえない。

 

本件商品の商品名に「元本非保証」との記載があること、原告の過去の類似金融投資商品の購入経験、ならびに原告が被告担当者に送信したSMS等に照らすと、原告は本件商品の構造とリスク、元本割れの可能性について十分理解していたものと認められる。

 

各商品の運用資産説明書には、利回り、元本割れが生じる条件およびその例示、収益構造の図示、ならびに10年分の基礎資産価格の推移が記載されていることから、一般的な知識と経験を有する投資家であれば、これらにより本件商品の構造および元本割れの可能性などリスクを理解し得たものと見える。

 

特に、原告は、金融監督院が定める企業開示様式の作成基準によれば、デリバティブ結合証券については投資説明書等の開示書類に基礎資産の直近20年の価格変動推移およびそれを用いた収益率シミュレーション結果を記載すべきであり、ELS発行体が作成する簡易投資説明書には20年分の収益率シミュレーションが記載され元本割れの可能性が把握できるものの、本件商品の商品説明書(運用資産説明書)には10年分の基礎資産価格変動の推移しか添付されておらず、基礎資産の過去データに基づく収益率シミュレーション結果がないため説明義務違反である旨と主張した。

 

しかし、運用資産説明書には元本割れ発生条件およびその例示や収益構造の図示が記載されていること、企業開示様式の作成基準は資本市場法等関係法令に基づき発行体が作成する証券届出書・投資説明書等の開示書類の作成方法や記載内容及び範囲等に関する規定であって、ELSの発行体ではない被告の商品説明書(運用資産説明書)に同規定が直接適用されるものではないこと、基礎資産である指数の変動履歴は投資家が比較的容易に確認できる事項であること、投資家が過去20年分の指数変動履歴を告知されたとしても将来の指数変動を予測できるわけではないこと、将来の指数変動に伴う収益性とリスクを衡量して投資の可否を決定することは原則として投資家である原告の責任領域であること等を総合し、本件商品の運用資産説明書に20年分ではなく10年分の基礎資産価格推移のみが記載され、かつ基礎資産の過去データに基づく収益率シミュレーション結果が含まれていないという事情のみををもって、被告が本件商品のリスクについて適切な説明を行わなかったと断定することはできない。

 

原告は、被告がH指数の構成銘柄の変更およびそれに伴う下落幅拡大の可能性について告知しなかったとも主張するが、被告がELS発行体が作成する投資説明書に含まれていない事項である同内容についてまで説明義務を負うと解すべき根拠はない。

 

その他、代位発行の事実は、説明義務の履行の有無を判断する根拠とすることは困難であり、被告が補償案を提示したという事情のみをもって、被告が自己の法的責任や説明義務違反等を認めたとみることもできない。

 

以上のとおり、裁判所は弊所の主張を全面的に採用し、原告の請求をすべて棄却する判決を言い渡しました。

 

 

5. 本判決の示唆

 

本判決は、金融機関が投資家に対してどの程度の説明を行うべきかは、当該金融投資商品の特性およびリスクの程度、投資家の投資経験・能力等を総合考慮して判断すべきであるとの大法院の立場(大法院2018年7月20日判決・2016ダ35352号等)を前提として、投資家に十分な投資経験および金融投資商品に関する理解力があり、説明時に用いられた運用資産説明書の記載内容が当該商品の運用資産説明書の記載と実質的に同一であり、金融機関が購入過程において説明義務を履行した事実が客観的書類など資料により明確に確認できる場合には、投資家が商品購入手続の過程で一時的に席を外したといった事情のみによっては説明義務違反が認められにくいことを示した事例です。

 

特に、本件では、原告が販売担当者による個別の不適切販売行為を主張するにとどまらず、被告銀行の運用資産説明書の記載内容(例:20年ではなく10年分の基礎資産の価格変動推移だけが記載されている点、基礎資産の過去データに基づく20年分の収益率シミュレーション結果が含まれていない点、H指数の構成銘柄およびそれに伴う下落幅拡大の可能性に関する記載がない点等)が不十分である旨まで主張しましたが、裁判所は、運用資産説明書にこれらの事項が記載されていないという事情のみをもって、説明義務違反と評価することは困難であると明示的に判断しました。

 

これは、単に本件における原告の個別な不適切販売主張を退けたにとどまらず、ELS商品の運用資産説明書に必須として記載すべき事項の水準・範囲について裁判所が直接に判断基準を示し、金融機関の説明義務違反の成否と関連し得る説明資料の記載範囲およびその限界を明確化した点で、今後の類似紛争における重要な判断基準を示したものと評価でき、非常に意義ある先例的価値を有するといえるでしょう。

 

 

法務法人(有限)和友の企業訴訟グループ金融紛争チーム・金融紛争PGは、各種金融機関の紛争解決において蓄積した経験とノウハウを基に、クライアントの皆様に最適なリーガルサービスを提供しております。金融投資商品の不適切販売紛争についてご照会事項がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。

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#金融 · 資本市場紛争